寝転がって目をつむる。
テレビから流れるクイズ番組の大げさな効果音と、反対側からシャワーを使う音が聞こえる。
緊張をはらんだ一瞬が派手な演出と共に正解に浮かれる回答者とギャラリーの歓声に取って代わると、反対側の水の流れる音が消えた。それから、浴室の戸を開ける音が一回。
賞金がと騒ぐテレビを右手に握り締めたリモコンで黙らせて、少し神経を尖らせる。
脱衣所の戸を開ける音がして、少し間をおいて湿った空気がやってくる。それから目を開けると半裸の男がさかさまに歩く。首にかけたタオルでちょっと口元を拭って冷蔵庫を開ける。
寝返りを打って頬杖をつくと正しい視界に正しく立って男は作り置きの麦茶を飲んだ。
上下する喉と、濡れた髪からこぼれる水滴、均整の取れた完璧な肉体は上気して色付いている。
例えばイルカが立ち上がり男のもとへ行き、彼の唇からコップを取り上げて代わりに自分の唇をあてがい貪ったとして、果たして数時間後に食われているのは自分である。
性を支配か被支配かと考えるのは多分思い通りにならないからだ。つまり欲情して完璧な肉体を持つ目の前の男を自由に扱いたいのに、結局いつも自由にされるからだ。
イルカはそれを、ずるいなあ、と思う。
自分は人を好きにするくせに人には自分を好きにさせないなんて、ずるいなあと思う。
カカシはイルカが抱かせてくれというと決まって、
「オレはイルカ先生が好きだから抱きたいんです」
といって断ってくれるけど、そんな理屈が通るならイルカだってカカシが好きだ。
そう反論するとカカシはむきになって自分の方がイルカのことを好きなんだと譲らないがそんな馬鹿な話はない。
要するに、ただイルカよりもカカシの方が強いというだけだ。いくらイルカが押し倒しても最後のときに喘いでいるのはイルカなのだ。
認めるのは癪であるがカカシのほうが上手なのは事実だ。思い通りにならないのはそうである以上は当たり前なのだ。
イルカはまた、ずるいなあ、と思う。
だって一つしかかわらないのに。
猫背のくせに。
イルカが見つめているとカカシはゆっくり振り向いて口角をついと上げた。いやらしい笑い顔になる。
「ナニ、みとれてるの?」
素直に頷くのが癪なのでイルカはそれには答えず別のことを聞いた。
「オレのこと好きですか?」
「もちろん。愛してますよ」
カカシは恥じらいもなく答える。それもイルカには少し癪だ。
「愛してるなら抱かせてくださいよ」
「バカだねえ、愛してるから抱くんじゃないの」
「たまには譲ってくれてもいいじゃないですか」
「そんな余裕はありません」
「冗談ばっかり」
イルカは一つため息をつく。カカシは口元に寄せたタオルの下でんふふと笑う。
分かりきっていた答えだが、ずるいなあ。
「オレだってアンタにあんあん言わせたいです。泣いて縋って許して、とか」
カカシはまた笑って、冷蔵庫に麦茶を戻した。それから足音を立てずに近づいて転がるイルカを真上から覗き込んで、また笑った。
イルカの背中を跨いで座るとカカシはイルカの耳をかじった。
「オレもそうゆうアンタが見たいです」
イルカの顎を捉えると振り向かせて、自分も覗き込むようにして唇を合わせた。
少しも話を聞いてもらえずイルカは不満だったが口付けに不満があるわけではなかったので、頬杖をついていた腕を支えにしてカカシに応えた。
吸ったり舐めたり絡ませたりしながらカカシはイルカを裏返した。仰向けになったイルカの腹を風呂上りの温かい手がいたずらに撫で上げる。
「ちょっ!」
慌ててイルカはカカシの額を押しやって引き剥がそうとした。もう片方の手はいたずらな右手を押さえる。
カカシは唇を尖らせた。
「なによ急に」
「なによって、オレまだ風呂入ってませんって」
カカシの肌から立ち上る石鹸の香りにイルカが言うと、カカシは「なんだそんなこと」と笑った。
「いいでしょ、どうせぐちゃぐちゃになるんだから」
言って喉を舐め上げる。
イルカは、自分勝手なひとだ、と思った。
自分ばかり人を好きにして、結局自分の思う通りに進めてしまう。
ずるいひとだなあ、イルカは舌で自分の耳を弄ぶ男の頭をつかんだ。