死ぬのは怖くない。
といったら嘘になる。だけどおれは言う。
死ぬのは怖くない。
「何か欲しいものはありますか。」
決まってあの人は、
「なにもいりません。」
という。おれはあの人に何かをあげたい。
「金は必要ではありませんか。」
「たとえ無一文になろうとあなたからは頂きません。」
「服は。」
「おれは女の子じゃないんだから、そんなのは必要ない。」
「宝石は。」
「おれがそんなの持っても宝の持ち腐れです。」
おれは金や服や宝石を欲しがる人間しかしらない。だからそれをあげようとしてもあの人は決して受け取らない。頑なに首を振るばかりだ。それどころか欲しがりな人間しか知らない俺のことを憐れむのだ。
「あなたの周りにはそんな人しか寄ってこなかったんですか。あなたはさみしい人ですね。」
「おれはさみしくないよ。」
「かわいそうです。」
たしかにおれはかわいそうかもしれない。こんなにもあなたに何かをあげたいと思っているのにあなたはなにも受け取ってはくれない。
「ねえ先生。金も服も宝石も要らないなら何が欲しいの。」
「だから何もいりません。」
「ねえ、なにかあるでしょ。」
「ありません。」
「うそ。じゃあなんでそんなもの欲しそうな顔するの。」
カッと顔を染めるあの人。ほら図星。
「あなたの持ち物が欲しいわけじゃない。」
それでも頑ななあなた。おれにはほかに何があるだろう。あなたにあげられるなにか。
「じゃあ先生。じゃあおれのいのちを差し上げます。」
「いりません。」
「お願いだよ先生。もうこれ以上は何も持ってないんだ。」
おれだって死ぬのは怖いんだよ。それをあげるっていってんだ。
「素直に受け取ってよ。」
「あなたは死ぬのが怖くないんですか。」
「怖くないよ。」
あなたがもらってくれるなら。
「受け取れません。」
ああ、なんだってそんなに頑ななんだ。
あなたは何が欲しいんだ。なんでそんなもの欲しそうに見るんだ。あなたがそんな目でおれを見るから。
おれはただあなたに何かをあげたいだけなのに。