夢を見た。
いちめんに紫陽花が咲いていた。道をゆくにしたがって薄紅から紫、少し曇った青などに色を変え、その変化はまるで虹の中にいるようだった。
薄く色づいた花びらが揺れて一粒のしずくを受ける。それで俺は雨が降っているのか、と思った。俺は傘を持っていなかったけど不思議とそれで濡れることもないし、また濡れるとも思わなかった。
それからひとつ、ふたつと粒が増え、しとしと雨が花びらを濡らすとむせ返るような花のにおいを感じた。
俺はそれを立ったままきれいだなぁと見ていた。柔らかな色が辺りをうめて優しい世界だなぁと見ていた。
ずっと先の方まで見ていた。
そうしたら、紫陽花の葉にかたつむりが現れるみたいにあの人が現れて、なんだか知らないけどとても上機嫌に鼻歌を歌っていた。いや、実際に歌っていたわけではなかったけれど、俺には鼻歌を歌っているように感じたのだ。
彼もやっぱり傘をさしておらず俺と同じで濡れてはいなかったが、それでも彼は濡れそぼつような艶をまとっていた。まわりからは雨と花が匂い立つようだった。
本当なら駆け寄って縋り付いて抱きしめたかったけど、そのとき俺は彼が俺のところまで来るのを待って、彼と俺の距離があと三歩分というところで笑って言ったのだ。
「あぁ、任務はいいですね」
俺は彼が任務に行くときにそんなことを思ったことは一度もない。任務から帰ってきたときだって無事に安堵はしたけど、でもまた任務に赴くことを思ってひどく心乱すこともあった。
「あなたを返してくれるから。慰霊碑では返してくれない」
もとから上機嫌だった彼は更に機嫌を良くして、ころころとまるで鈴を転がすみたいに笑ったのだ。それで俺も一緒になって笑う。
そんな夢だ。