ある午前

青い空を白い雲が飾っている。この季節にしては強い日差しが干した洗濯物の下に濃い影を作り、庭先の若い緑の葉っぱは太陽を反射して白く光った。

一仕事終えたイルカは空になった洗濯籠を拾い上げて縁側におくと自分もその隣に腰を下ろした。東向きのそこでは日差しをさえぎる影ができなかった。

座敷でざぶとんを折りたたんで枕代わりに寝転び暇を持て余していたカカシがのそりと立ち上がると、猫のようにしなやかにイルカの影に移動した。半分に折られたざぶとんを適当に降ろすとまたごろりと横になった。

その乗り出して手を伸ばせば触れる位置。身を乗り出さなければ届かない位置。

長袖の支給服では少し汗ばみ袖をまくってイルカは漠然と庭に視線を転じた。

木を植えてある道と敷地の境目の辺りから草が砂利の敷き詰めてある庭にまで侵食してきていた。時折吹く風に揺れる洗濯物の隙間から、砂利の間から芽を出したタンポポも一緒になって揺れていた。

すずめが一羽庭に降りたってちゅんちゅんとさえずりながら砂利の隙間をついばんだ。小さくとんで場所を変えながら二度、三度するとふたたび空に帰っていった。

遠くではかん高い子どもの声がはしゃいでいる。三、四人の子どもが新しいおもちゃを囲んで興奮しているようであった。それに仲良く遊びなさいよー、と女の声が掛けられた。それに子どもたちは上の空で返事をしてきゃいきゃいと騒いでいた。

自然、口の端がゆるむ。

と、不意に腰に当たるものがあった。

そちらに意識をうつせば器用に丸くなって体勢を変えたカカシの膝が押し付けられていた。カカシを振りかえれば、そ知らぬ顔で目をつむっていた。すましたその顔にイルカはこっそり笑った。

少しだけ身を乗り出して柔らかな銀糸に触れればカカシはあごを引いて頭を押し付けた。そのしぐさが犬のようだったのでイルカはぐいぐいと頭をなでた。

イルカの横に体を広げてカカシは仰向いた。誘うように銀のまつげを少し持ち上げるとまた下ろした。

イルカは肘を曲げ上体を預けると、すずめのようについばんだ。

遠く背中では子どもたちの一際高い歓声が青い空に吸い込まれていった。